体が火照って、くらくらして、自分ではどうしようもなくなって……。


“この女は、今日は俺が預かるから”


千広くんとふたりきりになったのは、現実?

それとも夢?



大きな手がわたしの肌をなぞっていた。

甘い声が何度もわたしの名前を呼んでいた。


“可愛いな、あやる”

千広の腕が、わたしを抱きしめて……。



ううん──やっぱり、あるわけない。


あの薬は精力剤、のようなものじゃなく、幻覚を見せる類のものだったに違いない。


触れた肌の感じとか伝わる体温とか、ぜんぶリアルだった気がするけれど、

昨夜、わたしの隣に千広くんがいたという証拠がないのだ。


だって、わたしは今この部屋にひとりだから。


制服のボタンもきちっと留まっているし、りぼんだって綺麗に結ばれている。


──つまり、“そういう”事実はなかった、と判断するのが正しい。