「な、あやる」
「嫌っ! なんでそんな勝手なことするのっ!?」
掴む手を思いっきり振り払った。
ああ……やってしまった。
目の前が暗くなる。
お父さんからゆっくりと笑顔が失せていく。
わたしは、また間違ってしまった。
「“勝手なこと”? お前、育ててもらった身でふざけたこと言ってんじゃねえぞ。お前がひとりでも苦労しなくていいように、学費も、家賃も、生活費も! 今まで誰が払ってやったと思ってんだ」
勢い良く振り下ろされた拳を、避けることはできなかった。
衝撃と同時に、頭がぐらんと揺れる。
バランスを崩した体は、あっけなくアスファルトの上に倒れた。
お父さんが暴力を振るうことは滅多にない。
だけど、その滅多にないことが起こったときが一番恐ろしいのだ。
──地獄は、また繰り返される。



