先生はまだ来ない。
ひとりごとかと思ったけれど、どうやらわたしに話しかけているようで。
「ころす、とか誰でも口にすることでしょ。そんなんでいちいち注意してくるのだるいよね」
「あぅ……ごめん」
「自分に向けられた殺意はあっさり受け入れるくせに、僕がそれを他の人に向けた瞬間怒るの、ほんとーに腹立つ、僕の気持ち全然わかってないじゃん……」
顔は窓の外を向いたままま。
視線だけがこちらにスライドしてくる。
また、だ。
また、あの暗く沈んだ瞳……。
「冽くんの……気持ち?」
「大事な人が酷い目に遭わされて復讐したいって僕の気持ちはどう処理すればいいの? もし、るーちゃんに危害を加える奴がいたら、僕はそいつをころす以外でどうすればいい?」
わたしを見ているけれど、見えているのは恐らくわたしじゃない。
誰かと重ねているみたい。
──『冽君は祖父とふたり暮らしだった』
絹くんから聞いた話が頭に浮かぶ。
そういえば千広くんも、冽くんは「家族を大事にしている」と言っていた記憶がある。
「……何もしなくていいよ。何かしようって思ってくれる気持ちが一番嬉しい」



