相手は目を丸くした。


「だって千広さん、女に下の名前で呼ばれるの好きじゃないって前に言ってたのに」



え? え、そう……だったの?

声に出そうになる。


中学のときから“千広くん”と呼んでいて、一度も文句を言われたことはなかったけど、本当は嫌だったのかな。



開吏(かいり)。これは俺が引いた女だ。大事に扱え」


たしなめる言い方。低い声に、空気がぴりっと張り詰める。



「……、わかった。千広さんが言うなら従うけど。でもなんでこんなモブ女を」



ヘアバンドの──開吏くんと呼ばれた彼は文句を言いつつも、今度は丁寧に頭をさげた。


「1年の椎名開吏です。役割としては、主に情報管理と内偵。BLACKには、この前ウチを抜けた人の後任で入りました」

「……椎名、くん。よろしくお願いします」