返事が怖くてもう目を見ることはできなかった。
このあとのことは想像がつく。
空気がしらけて。
気を悪くした千広くんは溜め息をついて、最悪、部屋を出ていってしまうかも。
そう思った直後、案の定落ちてきた溜め息に胸がずきっと抉られる。
「……――」
ぼそっと落とされたつぶやきは聞き取れず。
だけど、その響きが想像よりもずっと優しくて――。
「な……に?」
思わず聞き返して……しまった。
「……なんも言ってねえよ」
「うそだ、今なんか」
「お前、俺に”何されてもいい”って言ったな」
「え……」
「だったら……何しても文句言うなよ」
どういう意味だろうと考えたのが先か、闇に慣れたはずの視界が、再び暗くなったのが先か。
静かに、吐息を封じられた。
「……っ、…」
わたしを拘束していた手が輪郭をなぞるように進んで、指先に絡む。
体中の血液が、ぐわっと沸き立った。
「ちひろく……、ん、っ」
戸惑いはすぐに甘い熱に支配される。
触れていたのはほんの一瞬だったけれど、離れたあとも、唇には体温がずっと残ったまま――。



