千広くんの手と唇は、わたしの肌に余すところなく触れていたように思うけれど。


───そういえば……。
あることを思い出して、ふと冷静になった。


唇には、一度も触れられてない……。


最中、千広くんの余裕が少し無くなっているように思えたのも、顔が心なしか赤く染まっているように見えたのも媚薬のせいで。


千広くんは薬によって強制的に欲情させられていた……にも関わらず、

キスはしなかった、

最後まで……も、してない。



───つまりはそういう、こと。


わたしとキスするの、嫌だったんだ……よね。


最後までしなかったのは、媚薬の効果が薄れてきて、途中で正気に戻ったのかも。


たとえ薬のせいでも、甘やかしてもらえて幸せだって一瞬でも思ったのがばかみたい。急に惨めになる。


寝返りを打つふりをして、千広くんの腕をそっと解いた。