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階段を通り抜ける風がスカートを揺らす。
裾を抑えて、うつむいたまま時間だけが過ぎていく。

わたしの視線は、千広くんの足元から動かない。


「なあ、俺のこと覚えてるか?」


言い方を少し変えただけの、さっきと同じ質問が落ちてきた。


こくり。うなずいてみたけれど、辺りは暗いから相手には見えなかったかもしれない。

そう思って


「……“千広くん”」


覚えてるよ、の意味をこめて名前を口にすれば、直後。

またドッと脈が騒ぎだすから、どうしよう、って。
無意識に1歩退いてしまう。


「逃げた理由はなんだ。指名を拒否することは禁じられてる、それくらい知ってるだろ」

「う、ん」