そう言いながらも、本当にする気はさらさらないようで、唇を見つめてちょっと待ってしまった自分が恥ずかしくなる。
初めてなの、本当だもん。
「好きな人」とキスしたのは、初めて……。
だけどそんなの、言えるわけない。
“言えるわけなく”したのは、他でもない自分だから─────。
「お前、男にはなんでもかんでも“初めて〜”って言っとけばいいと思ってるだろ」
「思ってないよっ」
「その男慣れしてなさそーな態度も、じつは演技なんじゃねえの」
「っ、な……にそれ」
ぐらんと目眩がした。
秋くんといると、心臓をゆるく掴まれてるみたいでいつも苦しいんだけど、今度ばかりはなんか違う。
たしかに吸ったはずの息を、うまく気管へ運べないような、そのやり方すらわからないような。
「なんでそんなひどいこと言うの、」
このセリフがちゃんと声になっていたかもわからなかった。



