今回みたいな緊急時にも助け合えるし、ひとりじゃないという安心感も得られる。苦手な虫がいたら助けてもらえるし、飛行機について語り合えたりもする。

 もちろん愛し合った人とするのが一番に決まっている。でも、天澤さんなら一緒に生活してもなんだかんだうまくやっていけるんじゃないかと、なぜか漠然とした期待もあるのだ。

 私の意見を聞いた彼は、伏し目がちになって「メリットねぇ……」と呟いた。考えを巡らせている様子だが、その表情にはどことなく冷ややかな陰がある。

 妙に気になったものの、それは一瞬のことで、次に視線を上げたときにはいつも通りの余裕な顔に戻っていた。


「蒼麻にそこまでの度胸があるとは思わなかったよ。冗談言って悪かったな」


 ああなんだ、やっぱりさっきの話は冗談だったのか。そりゃあそうだよね。

 私は少しほっとして、もしかしたらもっと軽い条件で居候させてもらえるかもしれないと、期待を込めた明るい瞳で彼を見つめる。


「じゃあ──」
「俺も本気になってもう一度言わせてもらう。結婚しよう」


 真剣さが窺える彼の口から出たのは、響きだけは甘いひと言。脳が混乱して「へっ!?」とすっとんきょうな声を上げてしまった。

 今度は本当に本気なのかと開いた口が塞がらない私に、天澤さんは含みのある笑みをわずかに浮かべる。