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七月中旬の午前七時半、羽田空港第一ターミナルビルを出た私は、雲ひとつない青空を見上げた。
南のほうから少し風が吹いていて、セミロングのまっすぐな髪を揺らす。梅雨明けのからっとした空気は、本格的な夏の到来を感じさせる。
「RJTT、142230Z、18008KT、SKC……ってとこかな。今日はベストコンディションね。このまま一日平和でありますように」
垂れ気味の目を眩しさで細めながら航空関係者かマニアでなければわからないであろう専門用語を呟き、お天道様に向かって両手を合わせた。
毎日こうやって空に祈るのが日課になっているし、どんなときも天気を気にして風速や雲量まで予想してしまうのはもはや職業病である。
そこから徒歩数分で、職場であるオフィスビルに着く。華やかな空港内と比べると無機質な、いたって普通の建物だ。
〝オペレーション部、蒼麻つぐみ〟と記された社員証を首にかけ、気合いを入れて四階のフロアへ向かう。