むり、とまんない。


『杏には?』

『え?』


『杏にも同じのあげた?』


手元を見ていたはずの瞳が、いつの間にかじっと私を見つめていて。


『いや、香水苦手だって言ってたから違うものあげたよ。ほら、前に遥、柑橘系の匂い落ちつくって言ってたし』


『じゃあ、俺のことを考えて、胡桃が俺のためだけにつくった、俺専用の香水ってこと……?』


『え?う、うん……』


まあ、そう……なんだけど。


やけに「俺」が多くない?

なんて思っていたのも束の間で。


『っ、やば……まじで、めちゃくちゃ嬉しい。
嬉しすぎてどうにかなりそう』


いつもはぜったいに見せないような。

声を弾ませて、これでもかと頬を緩めて笑った遥。


あんな遥を見たのはあれが最初で最後かもしれない。


「はー……まじで幸せ」


その後も香水を見つめて、ずっとやわらかい笑みを浮かべてて。


『幸せなんて大げさな……そんなに嬉しいの……?』