むり、とまんない。



それに……。

久しぶりの近い距離。

肩がぶつかるほどになって、初めて気づいた。


ふわっと鼻をくすぐったあの香り。

ツンとしたレモンの中にある、やわらかくて甘いオレンジブロッサムの香り。


『遥って、名前がオレンジっぽいよね』

『そんなこと言ったら胡桃だって、橘だからいっしょだろ』


あれは昔、香水専門店にいって私がつくったオリジナル。


ツンとしてクールで女嫌いだけど、本当は優しい遥。

そんな彼をイメージして、何回も何回も調合し直してできた香りをまちがえるわけがない。


『これ、誕生日プレゼント』

『なに?』


まだいっしょにいた頃。

誕生日には欠かさずプレゼントをあげてた。


『ふふ、開けてみて』


『……香水?』

『うん。遥をイメージして作ってみた』


『作ったって……まさか、これ』


『うん。手作りだから、この世で一つしかない香り』