グッと横から肩を抱かれて、チャラいその人から引きはがされる。


「は、はる……」



だけど、ウィッグをかぶっているのか、前髪で顔はほとんど隠れてるし、メガネもしてて、一見すると遥には見えないくらい、地味な感じだ。


「は?んだよ、おまえ……」

「いこ」


まだ追いかけてこようとするその人を無視した遥は、私の手をとって歩き始める。


「おい、聞いて……」


「どっか行ってくんない。
目障り」


「はぁ?
なにかっこつけて……っ!?」


「消えろっつってんの。
日本語わかんない?」


そしてその人の腕を絞りあげると、遥は私の手を掴んで一目散に走り出す。


「芸能科の棟まで走るよ」

「はい……」



***



「はぁ、ここまで来たら平気か」


それから着いたのは、芸能科の棟。


こっちは元々芸能科の生徒以外は立ち入り禁止になってるから、今はまったく人がいない。


「……ごめんなさい」


それから息も整ってきた頃、私はすぐに遥に謝った。


「それは、ナンパされたことに対して?」


「違う。
マスク、つけてなかったこと」


最初からしてれば、こんなことにはならなかった。

本番前なのに、まだ病み上がりの遥を走らせるなんてしてしまって……。


「反省してるみたいだから、いいよ。
元々胡桃をよんできてほしいって頼まれてそっちに行ったから」


「え……?」


「ごめん、橘」


「甘利くん……」