「で、でも私は遥が……」


「わかってる」


慌てて返事しようとしたけれど、甘利くんは一瞬目を閉じて、被せるように続ける。


「遥がいるってわかってるけど、橘のこと、どうしてもすき。俺には1ミリも興味ない?」


「それ、は……」


「だから俺、遥に勝負しようって言ったんだ」


「え?
勝負って……」


「今度の文化祭のステージで、crownもbondも出る予定になってる。そこで、どっちのパフォーマンスがよかったか、見た人に投票してもらう」


「っ!!」


「もし、bondが勝ったら、俺は橘をきっぱりあきらめる」


「もし、crownが勝ったら……?」


「橘をあきらめない。俺を好きになってもらえるように全力を注ぐだけ」


「甘利、くん……」


ドクドクと全身の血液が逆流している気がする。

背中が冷たくなって、息が荒くなる。


「遥は、OKしたよ」


「えっ……」


「たぶんしばらく学校に来れないって言うのも、それ関係。新曲で忙しいっていうのも本当」


目の前がチカチカして、視界がぐらりと歪む。

甘利くんの声が、右へ左に流れていく。


「は、遥は、なんて言ってたの……?」


「もし、bondが負けたらって?」


「う、ん……」


聞きたいのに聞きたくない。


気持ちが葛藤してる間に、甘利くんはじっくりなにかを確かめるように、ゆっくり言った。


「胡桃を渡す気はないから、負けることなんて考えてないって。でももし、万が一負けたときには……」


負けたときには?


「胡桃を信じるって言ってたよ」