むり、とまんない。



もちろんbondの遥ってバレないように、マスクはつけてる。

黒髪に黒マスクだから、威圧感がすごい……。

って、そんなことよりも……。


この、香り……。

ふわっと鼻をくすぐるそれに、動揺せずにはいら
れなかった。


「そこ、取りたいんだけど」

「えっ、あっ……」


ぶるりと体が震えるくらい、冷たい声。

どうやらその男子が立っている目の前のレタスを取りたかったらしく。


「どーも」


え……?

なんでまだいるの?


用はもう済んだはずなのに、なぜか私の後ろから離れようとしない。


「じゃ、じゃあ私はこれで……」


「あっ、名前……い、いや、なんでもないです」


「え?」


その人は何かを言いかけたけれど、ビクリと体を震わせ、逃げるように行ってしまった。