「………」
「………」
それからしばらくの間、私をじっと見て、黙っていた甘利くんだったけれど。
「はぁ……」
観念したかのように、深く深くため息をついた。
「なんでわかった?」
「まあ、会話とかで……というか、なんとなく惹かれるものがあったっていうか……」
「惹かれるもの?」
「うん。
女嫌いだって言ってた割にはふつうに話してくれるし、いざ話してみると、結構話しやすい印象だったし」
クールでとっつきにくいって感じがまったくない。
「っ、それは……!」
相手が橘だったから、というか。
「え?」
「っ、いや、なんでもない……」
なにか焦ったように口を開いたけど、すぐに閉じた。
「それと……私のこと、橘って呼んでくれたから、かも」
ずっと心に引っかかってた。
名字で呼ばれたこと。
「だって橘は橘だろ」
『橘は橘だろ』
あれ、この言葉。
前にどこかで……。
「覚えて、ないか……」
「え?」
ボソッとなにか言ったその言葉は聞こえなかった。
けれどふっと笑って、甘利くんはキャップを被り直す。



