瞬間。
なぜか手を差し出したまま。
ものすごい勢いで目をそらされて、ぐりんと大きく後ろに顔を背ける甘利くん。
「あ、あの?
なんか顔、すごい方向に向いて……」
「っ、平気。
大丈夫だから」
「でも……」
普通に心配するレベルの角度、なんですけど……。
しかも謎に耳もほんのり赤い気がするし。
「いつまで床座ってんの。
早く、立って」
「あっ、ご、ごめん……」
そうだった。
私、座りっぱなしだった。
「ほら、手」
「あっ、ありがとう……」
手、けっこう大きいんだ……。
やっぱりちゃんと男の人、なんだ。
「っ、だから……」
「えっ?」
「……なんでもない」
再度差し出された手をとれば、なぜかまたびくりと震えた甘利くん。
「ぶ、ぶつかっちゃって、ほんとうにごめんなさい」
「俺は平気だから。
そっちは、大丈夫なの」
「あっ、はい、大丈夫です」
「じゃ、俺いくから」
「あっ、ま、まって!」
それからあの変な角度のままうしろを向くと、スタスタと歩いていく甘利くん。
なんだかいろいろ言いたいことはあるけど、
「体調悪いなら、保健室にいったほうが……」
アイドルなんだし、もし風邪で喉を痛めたらつらいだろうから。
「大丈夫だよ、橘」
「えっ……」
それから甘利くんの背中はすぐに見えなくなってしまった。
けれど。



