むり、とまんない。



「そ、そうなんだ……」


理解できないと言わんばかりに苦い顔のあーちゃん。

たしかに、もし自分がファンだとしたら、推しには優しくされたいと思うなぁ……。


遥のことだって、実際いろいろつらかったから。


「甘利くん、か……」

「ん?
あれあれ、もしかして浮気ですか?」


「ちっ、ちがうよ!」


ぼーっと甘利くんを見ていたら、ニヤニヤ笑いながらあーちゃんが顔をのぞきこんできた。


「なんとなく、遥っぽいなぁって思っただけで……」


「おおっ、惚気ですか胡桃ちゃん。
やっと遥くんと、ちゃんと向き合うようになったんだね!胡桃の頭にはいつも遥くんがいるんだよーって今すぐ本人に言ってあげたい!」


「っ、ちょっ!
声大きい!」


遥の話になると、なぜか目をキラキラさせて、声が大きくなるあーちゃん。


ただでさえ、朝から肩身せまいからほんとやめてほしい。


ほら、今も。

遥の名前を出したとたん、女の子たちが一気にこっちをふりむいて……。


えっ……?


「どしたの、胡桃?」


「あっ、いや、なんでもないよ……」


え、今……。


慌ててあーちゃんの口を押さえて周りを見回したとき、ずっと下を向いていたはずの甘利くんがこっちを見ていた気がした。


ーーーキーンコーンカーンコーン。


「あっ、チャイムなっちゃった。
じゃ、またあとでね」


「う、うん」



それからすぐに先生が入ってきてHRがはじまった。


窓側の1番後ろの席から真ん中の前の方に座る甘利くんをおそるおそる見る私。


気のせい、だったのかな……?


女嫌いで名高い甘利くんが、普通科の私の方を見る理由もないだろうし。


ただ耳障りだって思ってこっちを見ていたのかも。


それから授業がはじまって、朝の時間がまたたく間に過ぎていく。


遥、お昼に来るって言ってたよね。


また、キスとかするのかな、なんて……。


こ、こんなこと考えてるなんて、私変態みたいじゃない!?


でも、緊張以上に、遥と昼休みを過ごせることにとびきり楽しみな自分もいて。


お仕事、がんばってね、遥。


それから昼休みになるまで甘利くんが私を見ていたことなんて、まったく気づかなかった。