むり、とまんない。



「触んなよ」


バシッと音を立てて弾かれた手と、地を這うような低い声。


「隣に胡桃がいんの、見えてねーの?
俺はおまえのこと知らないし、知りたくもないのに、さっきから遥、遥ってうるさいんだけど」


ライブ会場同然だった教室が静まり返るほどの冷たい声。


遥の顔は見えないけれど、声だけでどれだけ遥が怒っているのかがわかる。


「どうせ俺の容姿と、名誉だけが目当てなくせに。彼女がいる男を遊びに誘おうとするとか、なに考えてんの?」


「えっ、か、彼女……?」


「なに?
文句ある?他人のおまえに胡桃のこと、とやかく言われる筋合いないんだけど」


「彼女」


それに反応したのは目の前の子だけじゃなくて、教室中の女の子がざわっとする。


「ちょうどいいから言っとくけど、告白したの俺からだし、ベタ惚れなのは俺のほう。正直一人で外歩かせるのもいやなくらい、好きなんだよね」


っ、なっ!?

なななっ!?


ちょっとまって!?


急な展開についていけなくて、ただただ顔を赤くする私。

そして、きゃああああ!!と過去一レベルで教室がうるさくなった瞬間。


「胡桃に何かしたら誰だろうと潰すから。
────胡桃」


「っ、なに、んんっ……!?」


くいっと顎を持ち上げられて、遥を見た瞬間。

女の子たちの悲鳴が、今度は遠くのほうで聞こえた。


「胡桃は俺のだから」
『誰にも渡さない』


だって、あまりに深く唇が重なるから。

頭がくらくらして、もう遥しか見えなかった。