「なに、言って……」
口は動いてない、はず。
なのに、聞こえる遥の声。
脳内に直接語りかけられているような、そんな感覚。
『前から思ってたけど、胡桃と部屋でふたりとかほんとむり』
『つか、ベッド乗んなよ』
『頭おかしくなる』
『杏、いつ帰ってくんの』
心臓がドクンドクンと嫌な音をたてて、背中を冷たいものが伝う。
顔は髪で隠れてて見えないけど、声は聞こえる。
なのに、遥は話してない。
じゃあ今聞こえてるこの声は……。
遥の心の声、ってこと……?
「あの、はる……」
『ほんと、むり。
帰って。今すぐ帰れよ』
「っ……!」
手を伸ばそうとすれば、ますます顔を背けて、一向にこっちを見なくて。
そして私と距離を取るように、立ち上がった。
「……コンビニ行ってくる」



