けれど。


「心の声が聞こえる?
なに?俺の心の声聞いてて、楽しかった?」


騙してたんだ?俺のこと。


杏は当事者じゃない。

心の声を聞かれる当事者じゃなかったから、私を疎遠にして、離れるなんてことはなかった。


でも遥は?

心の声をすべて聞かれていた遥だったら、どう思う?


嫌われるにきまってる。

人の思ってることを盗み聞きして、楽しかったか?と。


ずっと離れていたこのきょりがせっかく縮まって、また昔みたいに戻りつつあったこの関係が。


また、遠く。

今度こそは、私からじゃなくて、遥から遠ざけられてしまったら。


自分がどうなってしまうのか。

それを想像するのも怖いくらい、

遥と離れることに、怯えている自分がいる。


もし軽蔑の目で見られたら。

そう思ったら、遥の目を見ることができない。


「胡桃。聞いてる?」


「……」


「な、たのむからこっち向いて」


少し強引な、でもどこか泣きそうな声がうしろから聞こえる。

その声がまた、私の胸を締めつける。


きっと傷ついた顔をしているにちがいない。

さっきまであんなに優しくて穏やかな表情だった遥の笑顔を、この力が奪ってしまった。


この、力のせいで。


「胡桃……っ」
『……』



さっきからずっと、遥の心の声が聞こえない。

きっと、わざと押し殺しているにちがいない。


そうだよね、きもちわるいよね。

いくら幼なじみとはいえ、私なんかに聞かれていた、なんて。


「っ、ごめん……」


「聞きたいのは、それじゃない。
さっきの質問に答えてくれてない」


「ごめん……」


遥は好きって言ってくれているのに。

こんな自信のない私でごめんなさい。