瞬間。


「は……?」


頭をなでていたその手が、ぴたりととまった。

「今……なんて?」


え……?

一段と下がった声のトーンと空気に、はずかしさで伏せていた顔をあげれば。


「っ!!」

「胡桃。今、なんつった?」


鼻がぶつかるくらいの顔の近さと心を見透かすような鋭い視線に、ハッとする。


いま。

今。

あれ?もしかして私、遥の声に……。

反応、してしまった……?


!!


「は、放して……っ」


手首を掴むその手を振り払って、ダッシュで部屋を出ようとしたけれど。


「今、すきって言ったよな。
なんで?」


グッと込められた力が、はなさない、逃がさないって言ってる。


ドッドッドッと心臓がいやな音を響かせて。

血の気が引いた頭の中で、もう一人の私が何度も声をあげる。

逃げなきゃ、逃げなきゃ。


【心の声が聞こえる】


もし、そのことが遥にバレてしまったら。


今度こそ、嫌われるかもしれない。

俺のことぜんぶ盗み聞きしてたとか、タチが悪い。

きもちわるい。

そう言われるかもしれない。


なのに。


『すき。好きだよ、胡桃』


「っ、だから……!
好きって言うの、やめ……」


「俺いま、好き、なんて声に出してない」