「今はまだ、動物園のチケット代くらいしか出せないけどさ、大人になって働けるようになったら、もっといろんなところ連れて行くから。だから……」
「……だから?」
「大人になるまで、待っててもらえると、うれしい、です……」
どんどん小さくなっていく声がおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「なにそれ! そこはもっと堂々とさ『待ってろ!』くらい言えないわけ?」
「だって……」
「ふふっ、いいよ。待っててあげる」
「……ほんと?」
「その代わり、大人になるまでどこにも行けないのは嫌だから、ワリカンでいろんなところに遊びに行こ!」
「……うん!」
「でもさ、たぶん私のほうが早く働きはじめるでしょ? そしたらヒモだね、レイ。」
「いや、バイトがんばるから! 自分の分くらい払うから!」
「ふふ。楽しみにしてるよ。」
私の知らないところで、季節は進んでいたみたいだ。
泣き虫だったレイの左手は、いつの間にか私の右手よりも大きくなっていた。これからゆっくり、私の知らないレイをたくさん知っていけたらいいな。
澄み切った青空には、大きな入道雲がもくもくと立ち上がって、夏のはじまりを知らせていた。
fin.



