「……なに?見惚れてんの?」 


いつの間にかネクタイを締め終わり、意地悪そうに口角を持ち上げてキッチンへ入ってくる彼。

しまった。いつもはバレないように朝食の準備をしながらチラチラ見るだけに留めているのに、今日はついうっかりガン見してしまい、気付かれてしまった。

「ちっ、違います!今日も私センスいいなって見てただけです!」

「あっそ」

そう言って面白そうに笑い、ダイニングテーブルにベーコンエッグとトーストの乗った2人分のお皿を運んでくれる。

レタス、トマト、きゅうりの入った簡単なサラダもテーブルに並べ、お揃いのシャビーシックなマグカップにはコーヒーを淹れて、グレーの方を彼に、ブルーの方を私の席に置く。


このマグカップには名入れがしてあって、ブルーの方には"Ui"、グレーの方には"Taiga"と彫ってある。


母から引っ越し祝いでもらったものだ。




そう。私は今、大我と一緒に暮らしている。

でも私と彼は、付き合っているとか、結婚しているとか、そういう訳では決してない。


ではそもそもなぜ、私と大我が一緒に暮らすようになったのか。


高級チョコレートメーカー"ラピス"に入社して早半年。

ここから話は1年ちょっと前に遡る。