さようなら、同い年のあなた

「……わたし、いつからここにいるんです?」

「四月からですね」


確かに、今年はお花見をした後の行事の記憶がない。突然二ヶ月後に飛ぶなんて、よほど眠りこけて——


力を込めた拍子に曲がった指の角度で、指輪が第二関節までするりと動いた。


……うそ。ちゃんと、ぴったりにつくったのに。たったの二ヶ月で、この健康優良児のわたしの指が、こんなに痩せこける?


……うそ。


「何年のです?」

「はい?」

「わたし、何年の四月から、ここにいるんです?」


問いかけは低くなった。唸るようだった。男は困ったように曖昧に笑って、答えなかった。


「すみません、ど忘れしちゃって。二千なんとか年だったのは覚えてるんですけど」

「スマホ見てくれません?」

「忘れてきちゃったんですよね」


うそ。ポケットに粗雑に突っ込んであるのが見える。


……ああもう、ばかね。嘘をつくのが下手。


カバーと形は変わっているけれど、なんでもポケットに入れるくせは変わっていないらしい。


「……さっき」

「はい」

「わたしが、起きたとき。おはようって、言ってくれたでしょう」

「……うん」


男の口調が、柔らかくなった。その相槌に確信する。わたし、このひとを、知ってる。