私を赤く染めるのは



「嘘っ……本物じゃん」

スマホの画面をもう一度よく確認した後、朱莉は信じられないといった様子でそうつぶやいた。



「ハチって基本返事とか返したりしないの!ってか芸能人ってコメントなんて大量に送られてくるしいちいち返せないじゃん?今朝、仕事頑張るー!って投稿に『頑張ってください!今日もハチにとっていい日になりますように』っていつも通りコメント残したの。じゃあ、これ!この返事!今まで何百通とコメント送ったけど一度もこんなことなかったの。こんなことになるならもっとちゃんとした文章考えるべきだった?いやでも、短いから読んでもらえたのかも……それに、」

「ちょ、とりあえず落ち着きなよ」

あまりの早口に若干引き気味の朱莉。

私もよく噛まずにペラペラと喋れたと思う。

好きなことになると饒舌になるっていうのは本当だったんだ。



ハチの投稿には数百件のコメントがあり、
その中で返事を貰えたのは私を含むたったの3人。

ハチはただ、たまたまタイミングが合ったものに返事をしただけだろう。



それでも私にとっては涙が出るほど嬉しくて、未だに夢のような不思議な感覚の中にいる。


震える指に何とか力を入れてハチからの返事をスクショに撮り保存した。


そして、あの通知の正体は同じBijouのファンや繋がっている仲間達からだった。


《ゆづちゃん!ハチから返信きてるすごい》

《ハチがゆづちゃんのコメント見てくれたってことだよね?私まで嬉しいんだけど》


あまりの多さに全てを確認するとこは出来なかったが、同じようにBijouを応援するファンからのコメントにより一層胸が熱くなった。



「嬉しいのはわかるけど……泣きすぎ」

さっきから涙が溢れて止まらない私に朱莉はそっとハンカチを差し出してくれた。


真っ白なハンカチに上品な薔薇の刺繍。

見るからに高級そうなそのハンカチを私はありがたく受け取った。