「……何してんだ」
ドアを開けた人物は玄関で広がる光景に眉をひそめた。
それもそのはず。
この状況だけ見れば、私は玄関で男を押し倒している女だ。
「あ、碧人くん。こ、これは違うの」
ああ、最悪のタイミングだ。
せめて、先に帰って来たのがお兄ちゃんだったよかったのに。
「紫月……じゃないよな?とりあえずどいたら?」
友達の妹が男を押し倒すところを見ても、普段と変わらず冷静な碧人くん。
私は言われるがまま立ち上がり、煌の側を離れる。
すると、煌の顔を確認した碧人くんから出たのは意外な言葉だった。
「あ、もしかして例のアイドル?」
「へ?」
「紫月から聞いてる。今、預かってるんだろ」
お、お兄ちゃん〜〜〜〜!!!
碧人くんが知ってるなら先に言っておいてよ。
どうやら私の行動はとんだ取り越し苦労だったようだ。
こうも報連相(報告・連絡・相談)を使いこなせない人間がマネージャーなんてやれているのだろうか?
本気で心配になってくる。
「もう上がってもいい?」
その一言に自分たちが玄関で話しをしていたことに気がつき、私達3人は揃ってリビングへと移動した。
リビングに流れるのは重たい空気。
うちに入ってから終始無言のままの2人にお茶を出す。
お兄ちゃんがいない今、煌と碧人くんの間に入れるのは私しかいない。



