私を赤く染めるのは


「……ハチ推しだけど箱推しだからそれぞれ別の活動も追ってるの。漫画ももう読んだよ。悔しいけど煌にピッタリの役だと思う」

「悔しいってなんだよ。つーか、わざわざ漫画まで購入ありがとう」


さっきのお礼とは違う作ったような笑顔で台本を指差す煌。

「あ、ごめんレンタル。ハチが主演なら買ったんだけど」

あ、余計なことを言った。

そう後悔するも時既に遅し。

営業スマイルはスッと消え去っていた。



「3行目の沙友理〜の部分から始めるから、俺が読み終わったら続けて」

「わ、わかった」

渡された台本は何度も何度も読み込まれた形跡があり、小さな感情一つでさえ取りこぼさないようにといたる所に文字が書いてあった。

「沙友理と章は一緒にいるべきなんだよ……」

ああ、確かここはアイドルの直人が片思いの相手の背中を押すところだ。

「どうしてそんなこと言うの?」

幼馴染みの沙友理も同じく直人に想いを寄せていた。

でも、友人の章の方が沙友理を幸せにできると思った直人が身を引く切ないシーン。

「俺じゃあ沙友理を笑顔にはできない」

「私はそれでも直人と一緒にいたい」

「………………」

……あれ?次、煌の台詞だよね。

慌てて台本を確認するとカッコの上には間違いなく直人と書いてある。


「煌?」


「え……あ、あぁ、悪い台詞飛んだ」


私が声をかけると煌は一瞬、驚いたような素振りを見せたけれど、すぐにまた台詞を続けた。

「杏奈には、」

「杏奈はヒロインの名前だよ」

「ああ、そうだったな。沙友理ごめん。もうあの頃には戻れない」

台詞を飛ばしたり、ヒロインと沙友理の名前を間違えるほどこのシーンが不安だったんだ、煌。