私を赤く染めるのは



その姿に目を奪われていると「俺は沙友理の気持ちには答えられない」そう言いながら振り向いた煌と目があった。



「あ、」

「ご、ごめんなさい。邪魔して」



咄嗟に出たのは謝罪の言葉。



「なんで謝るんだよ。ここお前んちだろ」

それはそうなんだけど。

この空気を壊してしまった気がして、何だか申し訳ない気持ちになった。


「そんなところにつっ立ってると食材痛むぞ。とりあえずしまえばいいのか?」


いつの間にか荷物を手に持っていた煌が冷蔵庫前で振り返る。

「あ、うん。ありがとう」

煌に気を取られている場合じゃない。
早く朝食の準備に取り掛からないと。

キッチンの横に置いてあったエプロンに手をかけようとした時、後ろにいた煌からとんでもない言葉が飛んできた。


「朝食の前に本読み付き合ってよ」

ほ、本読み……?って絵本を読むとかそういうのじゃなくて、その手に持ってる台本のことだよね?

「私、今から朝ごはん作らないといけないし」

「まだ時間あるだろ。10分だけ」

そう言いながら見せられたスマホには9:05と表示されている。

10分なら出発時刻までにはギリキリ間に合うだろうけど問題は時間のことだけじゃない。


「私、演技なんてしたことないし」

中学生の頃に一度だけ文化祭で演じた役があるけれど、それは通行人A。

「こんにちは」と挨拶するだけの役で演技と呼べるような経験は一切ない。