私を赤く染めるのは



「結月ちゃーん?」


「あ、はい。よろしくお願いします」

差し出されたままの手に恐る恐る自分の手を伸ばす。


緊張からプルプルと震えた手を煌はなんの躊躇もなくギュッと握った。

隅々までケアが行き届いているその手からは煌の温もりが直接伝わってくる。


……え、何このファンサ。

名前呼びに握手ってもう何かのイベントでしょ??

供給が多すぎて死ぬ……!!


「結月ちゃんの手ちっちゃくて可愛いね」

漫画ならグハッと血を吐いてしまいそうな甘いセリフを煌から言われ私は心の中で必死に「私の推しはハチ。私の推しはハチ」そう唱えた。

そして、幸せな時間は終了。

煌に握られた右手からはフローラルないい香りがした。


先程から黙ったままだったお兄ちゃんは握手を終えた私と煌をじっと見つめると一言……。



「……煌……ゆづには絶対手を出すなよ」

そう忠告した。


な、何を言い出すんだうちの兄は。

人気アイドルが私みたいな一般人に手を出すわけがないでしょう。

煌に変なこと言わないでよ!


「あのね、」

「……出しませんよ。俺アイドルなんで」

私よりも先に否定する煌。

タイプじゃない……とか言われたらどうしようかと思ったけど、さすが煌!アイドルとして100点満点の答え。




余計なこと言わないでとお兄ちゃんに視線を送ると何かを感じ取ったお兄ちゃんが静かに頷く。



「じ、じゃあゆづ……空いてる部屋に煌を案内して。俺まだ仕事残ってるから」

お兄ちゃんはそう言うとそそくさと自分の部屋へと逃げていった。