そして離れていく煌の手。


「………………へ?」




予想もしていなかった言葉に私は体の力が抜け、その場にしゃがみこんだ。


すると、煌は私の目の前へと移動して、同じようにしゃがみこむ。

「大切なことは一番はじめに伝えるんだろ?」


「な、何それ」

「本当はもっと話したかったけど、アイドル結月ちゃんは多忙だもんな」

そう言いながら煌は笑う。

ああ、何で私は10秒なんて秒数にしてしまったんだろう。

「ひ、暇!すっごい暇」

「へー」

さっきまでのしんみりとした雰囲気はどこへやら騒がしい声がリビングに響く。

なんだかこの感じ、久々だな。


「急に出ていって、結月の気持ちをちゃんと聞かなくてごめん。さっきも言ったけど俺は結月のことが好きなんだ」


煌はそう言うと、そっと私の体を自分の方へと引き寄せた。

煌の温もりと、ドクンドクンと優しいリズムを刻む胸の音。

そして、懐かしい煌の香り。

「う、嘘だ」

煌が私のことを好きだなんて信じられない。

「お前さっき握手会で俺のこと信じてるって言ったじゃん。あれ嘘かよ」

「う、嘘じゃないけど」

煌のことは信じてる。

でも“私を”好きだという気持ちはどうしても素直に受け止めきれなかった。

だって、あのフラれた日から今日までの間に煌が私のことを好きになるタイミングなんてなかった。

私はまだ何も頑張っていない。

「言っとくけど、好きになったのは多分俺のほうが先だから」

「………っえ!?」

私よりも先という言葉に、ますます訳がわからなくなる。




「俺は職業柄お前だけを選ぶってのは難しいし、昔のこともあったから結月を傷つけるんじゃないかってずっと不安だった。でも、やっぱり結月には俺の隣で笑っててほしい」

煌の真っ直ぐな瞳が私を捉える。


「……私も煌のことが好き」

「知ってるよ」



こうして私達は少しの遠回りを経て、お互いの気持ちを伝えあった。