私を赤く染めるのは




「握手会の続き」

煌はそう言うと紙切れの束を机の上へと置いた。

そこには手書きで握手券と書かれている。

えっ、本当に握手会の続きをするつもりなの?

煌の行動にも驚いたが、机の上に置かれた紙にも衝撃を受けた。

「き、桐山結月って……私の握手会なの!?」

その手作りと思われる握手券に書かれていたのは煌の名前ではなく私の名前。


「どういうこと?」

「お前はもう散々喋ったろ」

……思っていたことの10分の1も喋ってませんが?


というか、これ私はどうすればいいの?


困惑する私に煌は握手券を差し出す。

「全部で35枚だから今から2分55秒」

机の横には煌のスマホで本物の握手会さながらきっちりとタイマーがセットされている。

「じゃあ今からな」

「え、ちょ待って」

「よーいスタート」

私の言葉に一切耳を貸さない煌は、タイマーのスタートボタンを押した。

2:54、2:53とスマホのタイマーが時を刻む。

すると煌は黙って私の手を取った。

そして、ゆっくりと話を始める。

「記事見た?」

記事というのはあのバッシング記事のことだろう。

「……み、見た。好き勝手書いてて酷いよね、本当」

「いや。あれ、ほぼ事実なんだ」  

煌の口からは予想外の言葉が返ってくる。

「え……」

「あのアイドル一吹のファンで楽屋から一吹の私物を盗ろうとしてたんだ。それを咎めたところが切り取られた。まあ、でも結果泣かせるような形になったのは本当」