私を赤く染めるのは




駐車場に着き、車に乗り込んだあと碧人くんの「どうかした?」という一言によって自分がひどく動揺していることに気づいた。


「な、何が?」

「今にも目から涙が零れそうだけど」

碧人くんは私の顔を覗き込む。

「そんなことないよ」

そう口にした直後、目からは一粒の涙がこぼれ落ちた。

違う、泣くようなことじゃない。

「ごめん碧人くん。泣くつもりなんかなくて……。たださっき煌のCMを見たら……なんか、」

止めどなく溢れ出る涙はまっすぐに頬を伝う。

思い出しちゃいけない、忘れなきゃ。
 
もうこの気持ちはどうにもならないんだから。

早く泣き止まないと碧人くんも困ってしまう。

鞄からハンカチを探すが、こんなときに限ってなかなか見つからない。

「ゆづ焦んなくて大丈夫」

その言葉と同時に、碧人くんの長くて綺麗な指が私の涙を優しく拭った。


「お、おかしいよね。テレビでBijouを観ても全然平気だったのに。あれかな不意打ちだったから……ははっ」


「ゆづ、無理に笑わなくていいよ」

無理やり作った笑顔じゃ、碧人くんの目は誤魔化せない。

「ごめん、ごめんね。碧人くん」

せっかく楽しい1日だったのに。


「そんなに好きなの?煌のこと」


本音を隠しても碧人くんにはバレてしまう。

そう思って小さく頷いた。

「でも、碧人くんも知ってるでしょ?私がフラれたの。ほんと早く諦めるないと……」

これは本当の気持ち。

「もう大丈夫だから、帰ろっか」

シートベルトに伸ばした手を碧人くんが優しく握る。