私を赤く染めるのは


「そんなこと……」


煌だから好きになったの。

煌じゃなきゃ好きになんてなってなかった。

伝えたい言葉は並べてみるとどれも薄っぺらいものばかり。

朱莉や碧人くんたちと違い初めて恋をした私は、煌への気持ちを上手く言葉で表現できなかった。

「あ、まじでそろそろ行くわ。……ってそんな捨てられた子犬みたいな顔すんなって。またいつでも会えるんだから」


煌はそう言うと私の頭をワシャワシャと撫でた。

……子犬扱いじゃん。


そして、目があったとき今まで見たどの表情よりも優しく微笑んだ。


「今までありがとう。結月」

煌が私の名前を呼ぶのは多分、これが最後。

私に触れるのも、笑いかけるのも。

もう意地悪な冗談に顔を赤く染めることもない。


「……お礼を言うのは私の方だよ。元気でね」


「ああ」


「じゃあ…ね」

“またね”という言葉は飲み込んだ。

お兄ちゃんがいる限り私と煌の繋がりがゼロになったわけではない。

けれど、私の気持ちを知った煌はもうここへは来ないだろう。

ガチャとドアが閉まる音がして、緊張の糸が切れた私はその場に座り込む。


我慢していたのか、それとも気が抜けたのだろうか。涙は自然とこぼれ落ち頬を濡らした。

部屋に戻るとハチの写真やグッズが並ぶ中、真っ先に煌から貰ったパーカーが目に入った。