(人として関わったのに、殺さないといけないの?)

絶望感で泣きそうになってしまう。あんなにも酷い事件を起こしていた。でも、イヅナには殺すことはできない。殺さなくてはと思うと、手が震えてしまう。

(人の姿になって、言葉が通じる間に説得しないと……)

彼岸花の模様が浮かんだ人間を探せばいい。彼岸花という目立った模様など、すぐに見つかるはずだ。イヅナは強く薙刀を握り締める。

そして、宿に戻って朝食を食べた後、すぐにイヅナは人狼になった村人を探して回った。針が刺さった腕を見て、「この人でもない、あの人でもない」と呟く。

「あれ、君ってあの時の……」

道を歩いていた時、イヅナは背後から声をかけられて何も考えずに振り向いた。そこにいたのはニコラスで、初めて話した時のように笑いながら手を振る。しかし、その手を見た刹那、イヅナの目が見開かれた。

「ニコラスさん、そのアザみたいなものは……?」

ニコラスの腕には、彼岸花の模様が浮かんでいた。そう、人狼に針が刺さった全く同じ場所にその模様は浮かんでいた。イヅナの体が震え、口から声にならない声が出て、イヅナは口元を両手で覆う。

「大丈夫?この模様はね、朝起きたら何故かわからないけどあったんだよ」

笑顔で言うニコラスに対し、イヅナの目の前が真っ暗になった。