元の道を戻りながら店じまいの様子を観察していく。
薬屋もいいけど食事処を開いてもきっと人気店になるわ。だって月影の料理は本当においしいもの。
「…わあ」
空を見上げると一面赤に染まっていた。
夕日が綺麗。家にいるときは、じっと夕日を見たことなんてなかったわ。
あ、たしかこの道から街に来たんだった。家に帰ろうとしたとき誰かに名前を呼ばれた気がして振り向く。
そこには黒い服の男が立っていた。
凛々しく整った顔。左目には仮面をつけている。
その男は驚いた顔で私の名を呼んだ。
「…白蘭」
ドキッと心臓が跳ねる。
名前を呼ばれていたいのに、もう二度と呼んでほしくない。
懐かしいのに誰だかわからない。
そんな不思議な感覚だ。


