「想像もつかないことだろう。お前のその高貴な衣も簪もどれだけの民の犠牲で出来上がるのか…天后という立場でありながらこの女は民を搾取した。大門前で斬首刑は当然の報いだ」

「そんな…兄上」


目の前にいる兄の発言が信じられず、以前の優しさを失くしていることに氷輪は驚愕した。


「それでも兄上どうか助けてください!育ててもらった恩をお忘れですか!?母上を助けてください!」

「恩…だと?ふざけるなっ!」


突然の怒鳴り声に氷輪は目を見開く。


「今まで私がどのような気持ちで生きてきたのか、まだわからないのか!育ててもらった恩?この女が私に愛情を注いだことが一度でもあったか?ないだろう?何に感謝しろと?」

「しかし…」

「私はずっと殺したかった。それが明日叶う。助けるわけがないだろう?天帝も天后も憎い。もちろん…お前もな」


別人の兄に、ついに氷輪は敵意を向けた。


「変わりましたね。兄上。前は善良だった。今はまるで欲望に目が光るただの龍だ」

「貴様らが私を変えたのだ」

「そんなんじゃ白蘭は兄上には嫁ぎませんよ」

「嫁ぐさ。必ず…手に入れて見せる」


月影は踵を返し自分の宮へ向かった。もう夜明けが近かった。






明朝、月影の計画通りに天后は大門前で斬首刑に処された。