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【魔界】


白蘭がいなくなって何年たったことだろう。


紅蓮は虹彩樹の庭で白蘭を想い酒を飲み眠りにつくことを繰り返していた。


泥酔すれば夢で白蘭に会うことが出来たからだ。


『紅蓮』

「白蘭っ」


浅い眠りの中、名前を呼ばれて急いで起きるもすぐに幻聴だとわかった。


そんなことが何度も起こった。


「…」


そういえば…ずっと人間界に行きたがっていたな。


病気になり一族が亡くなり最後に願ったのが人間界だ。


雪梨は『白蘭はやっと楽になった』と言っていた。


私もはやく楽になりたい。そなたのいない世界はまるで色をなさない。


はらはらと虹彩樹の花びらが落ち紅蓮の体を埋めた。


もう少し私がはやく魔宮についていたら、はやく呪神羅刹の元に行っていたら、そんな後悔ばかりが重くのしかかる。


最後に言葉も交わせなかった。どんな思いで白蘭は忘却湖に入ったのだろうか。


死期が近いと知り私に見せない為か、それともはやく苦痛から逃れたかったのか、白蘭がいなくなった今は誰にもわからない。