懐かしい夢を見ていた気がする。終点の電車を降りて、僕はあくびをした。いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。

「きっと、ミルクティーを買ったから小雪ちゃんの夢を見たのか……」

男物のスーツを着た僕の手には、仕事で使うかばんとペットボトルに入ったミルクティーがある。小雪ちゃんと別れてから飲まなくなった味は、数年ぶりに飲んだら何故かしょっぱく感じた。

小雪ちゃんは「さよなら」と言った次の日から、僕のことを徹底的に避けた。だから僕は、何も言えないまま小雪ちゃんと離れてしまった。

そして、大学進学と同時にあの家を出た僕は、ようやく男として暮らせるようになったんだ。大学を卒業して、会社員になって、毎日頑張っている。

でも、男の姿にようやく戻れても、一番幸せだったのは小雪ちゃんと過ごした日々だ。小雪ちゃんの温もりが今も忘れられなくて、あの日飲んだミルクティーの味も、今だって舌に残ってる。

「逢いたいなぁ……」

そう呟いた時、肩を誰かに軽く叩かれる。振り返れば、頬が赤くなって胸が高鳴っていくのがわかる。ああ、僕は今でもーーー。

「一口、あげる」

泣きながら笑って、僕にミルクティーを差し出す彼女が大好きなんだ。