「天野川さん、それ面白そうね。中身にはバニラオイル。パイ生地にはバニラエッセンス……。なんで思い付かなかったのかしら」
片山さんは少しだけ残念そうな顔をしている。
「やってみましょうよ」
「やりましょう。妥協はしないわ!」
「はい!」
その後皆さんも出勤されたので、再びアップルパイ作りに専念した。
「みんな、新しいパイ生地が出来たの。試食してみてくれない? 今回バターの風味を生かすために、生地に少しバニラエッセンスを加えて改良したの」
みんなでサクサクのパイ生地を食べてみる。
「ん……美味しいっ」
「なにこれ、美味しいっ」
バニラエッセンスを加えたパイ生地は、よりバニラの甘い香りが加わることでバターの風味がより強調されている気がした。
「なんか、バターの風味がより際立つ気がしません?」
「確かに、バニラの香りがふんわり香りますよね。でもバターの風味は消えてないし、むしろバターの風味が生かされてる気が……」
パイ生地をリニューアルすることで、より深みのあるパイ生地になった気がした。
「これ、大翔さんにも試食してもらいましょう」
「そうね、副社長にも食べてもらいましょう。 副社長の意見を聞きましょう」
わたしは出来たてのパイ生地を持って大翔さんの元へと向かった。
「大翔さん、ちょっといいですか?」
「由紀乃? どうした?」
「ちょっと食べてもらいたいものがあるんです」



