「かしこまりました」
そう言ってウエイターが彼に目配せをすると、
「僕も同じものを」と、スマートな返事が聞こ
えてくる。同様の言葉を口にし、ウエイターが
去ってゆくと、月城玲はテーブルに両肘をつき、
うっとりとした表情で紫月を見つめた。
「……まさか、本当に会っていただけるとは
思っていなかったので、少々浮かれています。
僕が何者であるか、その説明は要りませんね」
まるで恋をしているかのような、眼差しだっ
た。斜め前の、窓側の席で一久が自分に向けて
いたそれとは、随分違う。紫月はそのことに、
戸惑いながらも、ええ、と頷いた。
「あなたのことは、釣書を見る必要も
ないほどに、存じ上げています。ですが、どう
してこのようなご縁をいただけたのか、それが
不思議なんです。その……先の縁談が破談に
なったことは、どちらで?」
初対面で、まだ幾ばくも話していない相手に
そう問いかけるのは、不躾かも知れなかった。
けれど、訊かずにはいられない。
人の口に戸は立てられないが、そうだとして
も、その情報を耳にするのが、少し早い気がする。
向けられる眼差しを真っすぐに受け止めながら
答えを待つ紫月に、彼は目を細めると僅かに小首
を傾げた。そうして、徐に口を開いた。
「好きなんです。創立記念パーティーであなた
を見たときからずっと、わたしはあなたが好き
でした。だから、どちらにも、愛がないと思って
いるのは………あなただけなんです」
彼が口にしたその言葉に、紫月は思わず息を
呑む。なぜ、そのセリフを彼が暗唱できるのか。
答えは、訊くまでもなかった。
「あの夜、この店にいたんですね?」
僅かに、声に怒気を含ませ眉を寄せる。
すると彼は肩を竦め、小さく頷いた。
「偶然ね。僕はこの席でたまたま取引先の方と
会食をしていたんです。あなたは、その彼と窓側
の席で話をしていた。会話の内容がすべて聞こえ
たわけではありませんが、断片的に聞こえた内容
と、二人の間に流れる空気を悟れば、その関係が
終わりを告げることくらい容易に想像できる。
ですが……」
そこで言葉を途切って、紫月の目を覗き
込んだ。
「たったいま、僕が暗唱したあなたのセリフ
は、僕自身の気持ちでもあるんです」
その言葉に紫月は目を見開き、はっとする。
まさか、とは思うが……
彼の言葉が意味することは、一つしかなか
った。
紫月はごくりと唾を呑んで、口を開いた。
「もしかして、私たちは今日が初対面ではな
い、ということですか?あなたも、サカキの創立
記念パーティーに?」
紫月の問いかけに彼は口角を上げ、やんわり
と微笑む。その表情に小さく鼓動がなったが、
紫月は気に留めなかった。
そう言ってウエイターが彼に目配せをすると、
「僕も同じものを」と、スマートな返事が聞こ
えてくる。同様の言葉を口にし、ウエイターが
去ってゆくと、月城玲はテーブルに両肘をつき、
うっとりとした表情で紫月を見つめた。
「……まさか、本当に会っていただけるとは
思っていなかったので、少々浮かれています。
僕が何者であるか、その説明は要りませんね」
まるで恋をしているかのような、眼差しだっ
た。斜め前の、窓側の席で一久が自分に向けて
いたそれとは、随分違う。紫月はそのことに、
戸惑いながらも、ええ、と頷いた。
「あなたのことは、釣書を見る必要も
ないほどに、存じ上げています。ですが、どう
してこのようなご縁をいただけたのか、それが
不思議なんです。その……先の縁談が破談に
なったことは、どちらで?」
初対面で、まだ幾ばくも話していない相手に
そう問いかけるのは、不躾かも知れなかった。
けれど、訊かずにはいられない。
人の口に戸は立てられないが、そうだとして
も、その情報を耳にするのが、少し早い気がする。
向けられる眼差しを真っすぐに受け止めながら
答えを待つ紫月に、彼は目を細めると僅かに小首
を傾げた。そうして、徐に口を開いた。
「好きなんです。創立記念パーティーであなた
を見たときからずっと、わたしはあなたが好き
でした。だから、どちらにも、愛がないと思って
いるのは………あなただけなんです」
彼が口にしたその言葉に、紫月は思わず息を
呑む。なぜ、そのセリフを彼が暗唱できるのか。
答えは、訊くまでもなかった。
「あの夜、この店にいたんですね?」
僅かに、声に怒気を含ませ眉を寄せる。
すると彼は肩を竦め、小さく頷いた。
「偶然ね。僕はこの席でたまたま取引先の方と
会食をしていたんです。あなたは、その彼と窓側
の席で話をしていた。会話の内容がすべて聞こえ
たわけではありませんが、断片的に聞こえた内容
と、二人の間に流れる空気を悟れば、その関係が
終わりを告げることくらい容易に想像できる。
ですが……」
そこで言葉を途切って、紫月の目を覗き
込んだ。
「たったいま、僕が暗唱したあなたのセリフ
は、僕自身の気持ちでもあるんです」
その言葉に紫月は目を見開き、はっとする。
まさか、とは思うが……
彼の言葉が意味することは、一つしかなか
った。
紫月はごくりと唾を呑んで、口を開いた。
「もしかして、私たちは今日が初対面ではな
い、ということですか?あなたも、サカキの創立
記念パーティーに?」
紫月の問いかけに彼は口角を上げ、やんわり
と微笑む。その表情に小さく鼓動がなったが、
紫月は気に留めなかった。



