「The end of love, that it leave from his.
彼女、ココ・シャネルが遺した恋の名言は数多
くあるが、あの時のあなたに一番響く言葉は
あれしかないと思えたんです。だから、失礼を
承知で僕はあなたの部屋番号を確認し、メッセ
ージを届けた。気味が悪かったですか?」
悪戯がばれてしまった子供のように肩を竦め、
紫月の顔色を窺う。確かに、宛名も送り主の
名もない、あのメッセージが差し込まれて
いた時は、少し奇妙な気分だった。けれど、
その言葉が恋に傷ついた者へのエールだと
知っていた自分は、一瞬でも救われたような
心地になれたのだ。
だから紫月は、職権乱用とも言える彼の行動
を咎める気にはなれなかった。
「少しだけ。でも、誰かの悪戯かも知れなく
ても、あの言葉は私の心を癒してくれました。
あの夜は、本当に打ちひしがれていたので……
だから、あれは今も手帳に挟んであるんです」
そう言って頬笑んだ時、二人のウエイターが
テーブルの横に立った。そう言えば、まだ、
飲み物さえ口にしていなかったことを思い出す。
「お待たせいたしました」
その言葉と共に、手際よくシャンパンと前菜
が卓上に並べられる。真っ白なロングディッシュ
に、涼し気な色合いのジュレや香草が載っている。
「白身魚のカルパッチョ、ホワイトヴァルサ
ミコのジュレ添えでございます」
料理の名を口にし、一礼するとウエイターは
颯爽とその場を去って行った。一瞬、会話が
途切れ、二人は何となく笑みを交わす。
「ひとまず、乾杯しましょうか。僕たちの
再会に」
フルートグラスに注がれたラ・キュヴェは
きらきらと泡色に輝いている。そのグラスを
手にした月城玲は、まるで異国の王子のよう
だった。紫月もグラスを手にすると、彼に
向けてかざした。「乾杯」と口にし、互いに
シャンパンで喉を潤す。爽快な刺激と共に、
柑橘系と白い花を混ぜたような爽やかな香り
が鼻腔をくすぐる。一気に半分ほどに減った
シャンパンを眺めながら、彼は徐に口を開いた。
「これで、僕の気持ちは伝わったでしょうか」
呟くようにそう言った彼に、紫月は小さく
頷く。そうして、次にくる言葉を想像した。
自分はいまや一久を失い、仮とは言え、彼か
ら婚約を申し込まれている。
「正式に婚約を申し込みたい」
その言葉を彼の口から聞かされるのは、間違い
ないだろう。そうして自分には、この婚約を断る
理由が見当たらない。紫月はそっとグラスをテー
ブルに置き、その言葉を待った。
けれど数秒後、聞こえてきた言葉はとても意外
なものだった。
彼女、ココ・シャネルが遺した恋の名言は数多
くあるが、あの時のあなたに一番響く言葉は
あれしかないと思えたんです。だから、失礼を
承知で僕はあなたの部屋番号を確認し、メッセ
ージを届けた。気味が悪かったですか?」
悪戯がばれてしまった子供のように肩を竦め、
紫月の顔色を窺う。確かに、宛名も送り主の
名もない、あのメッセージが差し込まれて
いた時は、少し奇妙な気分だった。けれど、
その言葉が恋に傷ついた者へのエールだと
知っていた自分は、一瞬でも救われたような
心地になれたのだ。
だから紫月は、職権乱用とも言える彼の行動
を咎める気にはなれなかった。
「少しだけ。でも、誰かの悪戯かも知れなく
ても、あの言葉は私の心を癒してくれました。
あの夜は、本当に打ちひしがれていたので……
だから、あれは今も手帳に挟んであるんです」
そう言って頬笑んだ時、二人のウエイターが
テーブルの横に立った。そう言えば、まだ、
飲み物さえ口にしていなかったことを思い出す。
「お待たせいたしました」
その言葉と共に、手際よくシャンパンと前菜
が卓上に並べられる。真っ白なロングディッシュ
に、涼し気な色合いのジュレや香草が載っている。
「白身魚のカルパッチョ、ホワイトヴァルサ
ミコのジュレ添えでございます」
料理の名を口にし、一礼するとウエイターは
颯爽とその場を去って行った。一瞬、会話が
途切れ、二人は何となく笑みを交わす。
「ひとまず、乾杯しましょうか。僕たちの
再会に」
フルートグラスに注がれたラ・キュヴェは
きらきらと泡色に輝いている。そのグラスを
手にした月城玲は、まるで異国の王子のよう
だった。紫月もグラスを手にすると、彼に
向けてかざした。「乾杯」と口にし、互いに
シャンパンで喉を潤す。爽快な刺激と共に、
柑橘系と白い花を混ぜたような爽やかな香り
が鼻腔をくすぐる。一気に半分ほどに減った
シャンパンを眺めながら、彼は徐に口を開いた。
「これで、僕の気持ちは伝わったでしょうか」
呟くようにそう言った彼に、紫月は小さく
頷く。そうして、次にくる言葉を想像した。
自分はいまや一久を失い、仮とは言え、彼か
ら婚約を申し込まれている。
「正式に婚約を申し込みたい」
その言葉を彼の口から聞かされるのは、間違い
ないだろう。そうして自分には、この婚約を断る
理由が見当たらない。紫月はそっとグラスをテー
ブルに置き、その言葉を待った。
けれど数秒後、聞こえてきた言葉はとても意外
なものだった。



