私は別に、ファンの人がどんな髪型であろうと不快と思わない。駄目なのは彼自身じゃない。私を推して美容室代を節約したり、私を推していじめられる状況だ。

「駄目じゃないけど、あいつらに無理やり切られるくらいなら、自分の意思でちゃんとしたプロに切ってもらったほうがいいよ」

「それは、貴女のお願いですか」

「まぁ」

 問いかけに含みを感じながらも、私はうなずいた。

「なら、明日ちょうどお休みですし、髪の毛は明日中に何とかします!」

 縁川天晴は高らかに宣言する。

「推しのお願いですしね!」

「……ん」

 私のことなんて、さっさと忘れればいいのに。

 別のひとを応援したり、別のことに目を向けてほしい。

 もう、推された分返すことはできない。私を推しても、デメリットしかない。

 これからどうしようかと思っていたけど、なんとなく目指す方向みたいなものが決まった。

 アイドルは辞めるとき、卒業すると言う。でもファンは違う。他界するというらしい。

 死に損なった私が他界させるなんて変だけど、でも炎上の末に灰になった、偶像ですらないのだ、私を推していても、不幸を招くだけ。

 この出会いに意味があるのなら、きっと私の役目は縁川天晴が、私を推すのを辞めさせることだ。