君が生きていれば、それだけで良かった。



 縁川天晴(えんがわあまはる)の通学路は、ほぼほぼ畑と獣道だった。彼はそれなりに顔が知られているようで、畑で作業をしているおじいさんやおばあさんに声をかけられ、照れながら会釈で返していた。

 この辺りは、自然豊かで田舎に近しい性質を持った土地なのだろう。

 前に地方ロケへと行ったけれど、そこと雰囲気が似ている気がする。小道にはさらさらと湧水が流れ、空も高い。まれに見る自販機は古びていて、瓶の飲み物が売られている。別に幼少期こういった場所に住んでいないのに、懐かしさを覚える。

 田畑を区切るよう伸びたアスファルトの道を歩きながら、私は縁川天晴へ振り向いた。

「このあたり、いいね」

「そうですか? 娯楽も少ないですし、食べ物は商店街にありますけど、ほかの買い物はみんな電車ですよ」

 縁川天晴の言う通り、確かに買い物は大変そうだなと思う。歩いている限りスーパーやコンビニも見ない。立ち並ぶ店の代わりに木々が茂り、蝉たちが大合唱をしている。

「どっか遊びに行ったりも出来ませんし、僕の救いは貴女です」

 真剣な声に、聞こえないふりをした。

 だって、果崎あかりに、彼は救えない。