君が生きていれば、それだけで良かった。


 しかしながら万単位で自殺者が絶えないこの国では、大変残念なことに自殺防止の策が講じられている。

 駅ではホームドアが設置されているし、踏切では緊急停止ボタンがある。

 ある程度の階数を超えた建物は窓が開かないところがほとんどだ。飛び降りに適している崖や橋はボランティアの見張りがいるし、学校の屋上なんて業者すら立ち入らず、扉にはべっとりほこりが溜まっていた。

 睡眠薬だって、そうやすやすと大量にもらえないし、不審な言動を見せればすぐカウンセリングが入る。

 楽に死ぬことすら許されないのだ。この世界は。

 包丁で胸を一突きは痛いし、絶対奥まで刺せる気がしない。リストカットで死ねるわけないなんてネットには書かれているし、首つりは方法より先に失敗したときのリスクが滔々と語られる。

 死にづらい。