「なんで俺があんたにカードキーを渡さないといけないんだ」

「わたくしたちは婚約中なんですよ、わたくしは理樹さんと結婚したらこのマンションに住むんですから、当たり前の事ですわ」

「誰と誰が婚約中だって?」

「わたくしと理樹さんです」

「俺はあんたと婚約破棄したんだ、俺は亜紀と結婚する、だからさっさと出て行ってくれ」

「本当に亜紀さんを愛しているのですか?」

「どう言う意味だ」

「理樹さんが愛しているのは、五年前に癌で亡くなった真央さんですよね」

俺は愕然とした。

確かにニューヨークで亜紀を見た時は、真央が生き返ってきたと見間違うほど似ていた。

しばらく、真央と一緒にいると錯覚していた。

でも、一緒に過ごすうちに俺の中に大半を占めていた真央の姿が薄れて行った。

そこに存在感を現したのは亜紀だった。

俺が惹かれて抱きしめたいと思ったのは真央じゃない、目の前にいる亜紀だと確信した。

「俺が愛しているのは亜紀だ、真央じゃない」

そんな俺の言葉に愛理お嬢さんは驚きの表情を見せた。

「今日はもう遅いから、この部屋で休んで、明日荷物をまとめて出て行ってくれ」

俺の気持ちは愛理お嬢さんに伝わったと思い込んだのは俺だけだった。

まさか、愛理お嬢さんの亜紀に対する敵意に火をつけてしまう結果になるとは誰が予想出来ただろうか。