もちろん、父が悪い事は百も承知だ。

目をかけて貰っていたのに裏切ったのは父だからである。

理樹さんが東條財閥の御曹司だなんて……

理樹さんのお父様は私のことを知ったら反対するに決まってる。

そもそも、理樹さんは私の父の事を知らないのだろうか。

理樹さんとの結婚は出来ない事は分かりきっている事。

私が昔、裏切られた男の娘だと言う事を知ったら、息子の会社で働いているなんて知ったら、考えただけでもゾッとする。

私は理樹さんの側にいてはいけないと自分に言い聞かせた。

「私、副社長の秘書は辞退させて頂きます」

そして、出口に向かってあゆみを進めた。

「亜紀、ちょっと待って、何でそうなるの、僕は御曹司でもなんでもないよ」

「どうしよう」

「亜紀、理樹の事は忘れろ、僕を好きになってくれ」

副社長は私を抱きしめた。

「少しだけ、このままでいて」

亜紀は抱きしめた身体を震わせていた。

思いもよらぬ真実に打ちひしがれたのだろう。

理樹は昔からそうだった。