「違います、副社長の恋人ではありません」

「ショックだな、そうはっきり否定されたら」

理樹はしばらく亜紀を見つめたまま黙っていた。

僕は亜紀とこの場を去ろうと思い亜紀に声をかけようとした矢先、理樹が亜紀に向かって声をかけた。

「水本さん、ちょっと二人で話したいんだけど、時間大丈夫?」

「はい」

「と言うわけで水本さんを借りる」

理樹は「亜紀はお前には渡さない」と言わんばかりに僕を睨みつけた。

「わかった、亜紀、話が終わったら副社長室に戻って来てくれ、いいね」

「はい」

僕は後ろ髪を引かれる思いだったが亜紀を残して社長室を後にした。

エレベーターに乗り込み副社長室に戻ると、何か今まで感じた事がない気持ちを処理仕切れない自分がいる事に気づいた。

今すぐ亜紀を連れ戻さないと後悔するのではないだろうか。

亜紀は理樹を愛している。

そんなことは亜紀を見ていれば一目瞭然だ。

じゃあ、僕に対する気持ちは残念ながら一ミリたりともないに等しい。