その夜、亜紀は嬉しくて、俺が渡したニューヨークのガイドブックを枕元に置いたまま寝入ってしまった。

それを目の当たりにした刈谷はすぐに俺が亜紀に会いに来ていると察しがついたのだ。

次の日、同じ時間に亜紀の病室に行った。

いないはずの刈谷が俺を待ち構えていた。

「この泥棒猫が、人のいない隙に卑怯だぞ」

俺は思いっきり殴られた。

「やめて、秀、理樹さん、大丈夫ですか」

亜紀はベッドから立ち上がり、俺を庇ってくれた。

その瞬間、ぐらっと目眩がして倒れた。

「亜紀、おい、亜紀、しっかりしろ」

俺はナースコールを押した。

すぐに三船が駆けつけて、亜紀の処置をしてくれた。

亜紀はしばらく絶対安静の状態になった。

「東條くん、血が出てるわよ、何があったの」

「あいつに殴られた」

「まさか、手を出していないわよね」

「何もしてねえよ」

三船は俺の手当てをしてくれた。

「亜紀の気持ちがわかったんだ」

「あ、そう」

「何を怒ってるんだよ」

「わかんない、なんか気分悪い」

「大丈夫か」

「東條くん、その優しさがいけないんだと思うよ、愛理さんだって、その気になったんじゃないの?」