「萌乃は、」
「萌乃は知らなくていいって、言わないで」
「……まいったな」
尋くんは困ったように笑う。
尋くんも、犀川くんと同じことを言う。
それが私のためなんだって想像はつくけれど、それでも、私は全部知りたいのに。
「もう少ししたら終わると思うから、その時ね」
もう少ししたら、終わる?何が──?
尋くんに聞こうと思ったけれど、尋くんはきっとそれ以上何も教えてくれないのだとわかっていたので、諦めた。
「じゃあ、また明日」
家の前まで送ってくれた尋くんは、ひらりと手を振る。
「ねえ、これだけ教えて」
「ん?」
「尋くんが私と遊ばなくなったのは、どうしてだった?」
小さい頃、いつも遊んでくれた近所のお兄ちゃん。紛れもなくそれは私の初恋で、これからも当然一緒にいられるものだと信じていた。
でも尋くんは私の前から姿を消して、気づいた時には裏社会の人になっていた。
「……ごめんね、一緒にいられなくなって。
でもまたこうやって会えて、嬉しいよ」
「私も、嬉しいけど」
「じゃ、気をつけてな。おやすみ」
また上手くはぐらかされてしまったと気づいたのは、もう尋くんの車が見えなくなってしまった後だった。
家に帰っても落ち着かなくて、犀川くんに送ったメッセージを見るけれど、返信はない。
と、見つめているうちにパッと付いた「既読」のマーク。ドクン、と心臓が跳ねる。
今は、スマホを見てるってこと?
少し迷ったけれど、思い切って通話ボタンを押した。しばらくしてから、『……はい』と聞こえる声。
久しぶりの犀川くんの声に、胸がぎゅっと締め付けられた。



